裏口から直通のエレベーターを使い、俺は橋田の元へと向かった。 だがいない、どうやら下で孫の母親を尋問…いや拷問しているようだ。 なのでエレベーターで下に向かい、似蔵様を探す事にした。 途中モップで床を磨いている用務員を見つけ、俺は咄嗟に柱の陰に身を隠す。 いや、別に用務員が怖いわけじゃない。 その顔は見知ったものだった、知りすぎてた。 つーか何でグラサン掛けてんだよ、よく面接通ったなそれで。 お互い頑張ろう、じゃねーよコレ。思いっきりやりにくいっての。 「長谷川の就職先って、橋田屋だったのかよ…」 俺は苦々しく前髪をかき乱す。 この通路を通れば橋田がいる部屋には、似蔵様の元へはすぐだが…。 どうしても行けない、長谷川に顔見られたら終わりだ。 だが遠回りすれば間に合わなくなるかもしれないしな、ここで迷ってても同じ事だけどよ。 (諦めるか、万が一でも顔見られるワケにはいかねーし) 俺は踵を返し、階段へ向かうことにした。 笠で顔を隠して早足で通り過ぎれば、バレる確率は低い。 しかも今の俺は刀を懐から帯に移動させている、誰が見ても立派な浪士だ。 長谷川は多分関わろうとしないハズ、俺を見ても床掃除に勤しんでスルーするだろう。 それでも、俺は長谷川の横を通り過ぎようとは思わなかった。 いや…思えなかった。 「…何やってんだよ俺は」 最悪だ、隠密が時間に遅れるとかありえないってのに。 この期に及んで俺はまだ、崩れて壊れるのが怖いのか。 どうせいつかは長谷川とも袂を分かつ日が来るのにな、それが早いか遅いかの違いだけ。 アイツがこの腐った世界で生きたいと望む限り、俺達の道は決して交わらない。 例えるなら、ただ単に踏み切りの待ちで一緒になっただけの関係だ。 それなのに何で俺は…。 「………………!?」 階段を下り、回りこんでいる最中に上から派手な音がした。 俺は走って反対側の階段を探す。 急いで駆け上がっている間に、再び大きな音がした。 現場に辿り着くも、何故かシャッターが閉じていて入れない。 小さく舌打ちをして出入り口を探す、橋田屋の仕掛けを調べておかなかった俺のミスだ。 ……多少危険だが、直接上に入るしかないか? そんな事を思っていると、横から白夜叉が飛び出してきた。 俺は素早く通路の陰に隠れてやり過ごす。 肩部分に刀傷があった、だが本人は生きて最上階へ向かっていった。 (まさか…!) 白夜叉の姿が完全に消えてから、俺は逆方向へと向かった。 斬られたシャッターの残骸を踏み越え、中央へと走り抜ける。 そこには、刀を折られうつ伏せで倒れている似蔵様が残されていた。 「似蔵様!!」 頭部出血が酷い、だけど打撲的な傷だった。刀で斬られた痕じゃない。 まさか木刀で似蔵様を打ち破ったのか? 信じられない、似蔵様に勝っただけでも信じられないのに得物が木刀だなんて…。 似蔵様が小さく動き、呻き声と共に身を起こす。 「起きられますか?」 「…完敗のようだねェ」 「多分橋田屋での仕事はこれで終わるでしょう、俺は橋田にその旨を告げてきます」 「そうかィ、仕事熱心さね」 ガーゼとテープを用意したが、似蔵様に振り払われて下に落ちる。 いつもの事なので特に気にせず、落ちたそれと似蔵様の折られた刀を拾い上げた。 「……ねェ…」 「え?」 「あの男、何だか気に食わないねェ…!」 憎々しげに呟いて、似蔵様は去っていった。 一体何が見えたのだろう。似蔵様は俺達には見えないものが見えるらしいのは知ってる。 万斉様もそうだ、俺達には聞こえない音が聞こえるらしい。 俺みたいな凡人には想像もつかない世界だ。 「…もしもし」 『さんですね、何かありましたか?』 「この一件に坂田銀時が関わってきました。木刀で似蔵様を打ち破ったようです」 『何ですと?』 「橋田の孫は奪いましたが、多分すぐに取り戻されるでしょう。似蔵様は負傷し帰還しています」 『………………』 「俺は橋田と話をつけてきますが、帰還宣言でよろしいですか?」 武市様は悩んでいるようだった。 そう、俺が白夜叉と戦ったところで勝てるワケがない。 今回送り込まれた鬼兵隊の隊士は俺と似蔵様だけだ。 後は他の派閥だったが、確実に似蔵様は浪士の中で一番の腕を持っていた。 それが破れたのなら長居は無用、橋田と話をつけ帰還するのが安全策。 『まったく困りましたね…。 ここで橋田屋に恩を売っておけば、武器の入手がもっと楽になると思っていたのですが』 「今の俺達はこれ以上動かない方がいい気がします、ヘタに目立つのはマズイかと」 『坂田銀時…思ったよりも要注意人物のようですね、桂と共に警戒を続けますか。 お疲れ様ですさん、帰還許可を出しますので戻って報告をお願いしますよ』 「はい、分かりました」 通話を切っていつものように履歴を消してから、俺は一旦橋田屋から出た。 そこで待っていた仲間に似蔵様の刀を渡す。 似蔵様の敗北は出来る限り内密にしたいからだ、証拠は残さないに越した事はない。 俺はまた橋田屋に戻り帰還宣言をするも、橋田は殆ど上の空だった。 帰還宣言も二つ返事で了承され拍子抜けする。 孫を奪えなかった責任を追及されると思っていたのに、どういうことだろうな。 顔つきも多少優しくなった、ような気がする。 「……ま、いいか」 丸く収まるってんなら大歓迎だ。 俺は万斉様のようなプロデュースは無理だし、肩の荷が下りて正直助かる。 それに、あの作戦を控えている今はそっちの方に気を回したいしな。 まだ時間がある、今日はこのまま村田の所に行こう。 アレについて気になることがある、完全に独断だがもう少し情報を集めておいた方がいい。 機械兵器、紅桜についての情報を。 |