下っ端隊長とか不名誉な名前で呼ばれてる俺。

実は理由があったりする。

下っ端の中では強いとか、そういうんじゃなくて。

いや、確かにそれが主な理由…ってか原因なんだけど。



「下っ端隊長ー、武市様が読んでるぜー?」

「だからその名前で呼ぶんじゃねェェエ!!」









黒の行方








武市様から指令を貰った俺は、一人こんな所で座っている。

ニワトリみたいな天人がマスターをしてる酒場、店の雰囲気はどう見ても最悪。

一般的な、マトモな人間ならまずこの店に飲みには来ない。

ここは道から外れた人間、または天人が来る場所だ。

道外れた生き方してる俺が言えた義理じゃないが、仕事じゃなけりゃ一刻も早く立ち去りたい所だ。



「お前がか?」

「…はい」



上から声を掛けられた俺は、その場に立ち上がって相手の正面に移動した。

几帳面そうな顔立ちにその服装、武市様の情報と完全に一致する。

宇宙海賊『春雨』の末端、一部隊を率いている天人の陀絡だ。



「一人だろうな?」

「一人です、念入りに確認しましたんで」



俺は天人が大嫌いだ。

特にコイツのような、大なり小なり幕府と癒着してる天人を見ると吐き気がする。

吐き気どころか斬り殺したくなるが、これは大切な任務なので私情は挟まない。

それに情けない話だが、俺の力ではきっとコイツには勝てない。



「で、どの程度欲しいんだ?」

「まず量によっての説明が欲しいです、これで買える量までで結構ですのでお願いします」



俺は武市様から預かった札束を懐から出して陀絡に見せた。

これは鬼兵隊の軍資金であり、俺の金じゃない。

そしてすぐに懐に仕舞う、万が一盗られたらきっと取り返せないから念のために。

個人が持つには大きい額を見た陀絡は、眼鏡の奥にある目を見開く。

そして笑みの形に細め口端を吊り上げる。



「話が早い人間は好きだが、その量一気に使ったら死ぬぞお前」

「構いません、どうせ俺は使わないんで」

「だろうな。お前運び屋か?」

「まぁそんなところです」



その後、俺は転生郷の説明を受けるために春雨の船へと向かった。

陀絡が俺をどう思ったは分からないが、多少警戒してるのは間違いない。

何故なら桂一派が春雨を嗅ぎ回っているからだ、しかも鬼兵隊とは逆の方針で。

俺が桂派だと思われたなら、この船で殺される確率が高い。

まあ来る客全てを疑ってる暇はないだろうし、何よりも金の力があるから大丈夫だろう。



「陀絡様は今忙しい、桂の仲間を捕らえたらしいんでな。向こうに部屋があるからそこで待ってろ」

「分かりました。先に行ってますよ…ッ…!?」



突如大きな爆発音と共に足元が大きく揺れる。

機械的な音声が侵入者を訴え、甲板に全員集合を促し赤いサイレンを鳴らした。

案内をした天人二人は俺を置いて走り去る。

残された俺は少し考え、部屋には行かずに状況を把握する事にした。

連続する爆発音は無差別攻撃ではない、どうやら転生郷を狙っているようだ。



「見つけたぞ!よくも転生郷をヤりやがったな!!」

「…何のことだか分からないが、爆発は俺がやったんじゃねぇぞ?」

「うるせェ!!」



どうやら俺を桂派と勘違いしたらしい。

誤解を解こうとしたが全く聞く耳を持たない、外での喧騒は思ったより深刻なようだな…。

馬鍬のような相手の武器が振り下ろされるが、俺は紙一重でそれをかわす。

そして懐に隠していた刀を鞘から抜き放ち、駆け抜けざまに相手の頚動脈を正確に斬りつけた。



「……よし、行くか」



顔に付いた返り血を袖で拭い、刀から血を振り払ってから再び収める。

陀絡のような強者には勝てないが、雑兵なら俺でも何とかなる。

晋助様は春雨と手を結ぼうと考えていたので、俺の行為は本来なら最悪の手段だった。

だが今は別、放送にあった侵入者とやらに罪を被ってもらえるなら好都合。

俺はケイタイを取り出した、そして直接番号を打ち込み電話を掛ける。



「…です」

『では、私は何ですか?』

「…フェミニストです」



いつも思うけど何この合言葉。

俺の心の声は当然届かず、満足そうな声色が返ってくる。

これ絶対用心とかじゃないだろ、フェミニストって呼ばれたいだけだろアンタ。



『お疲れ様ですさん、どうですか?何か情報が掴めたから電話したんですよね?』

「はい。…桂一派はどうやら本当に春雨と敵対するつもりだったようです」

『おやおや、やはりですか』

「俺は今春雨の船内にいますが、あちこちで爆発が起こり転生郷が焼失してるので間違い無いかと」

『なんと…桂が動いているのですか。続けて下さい』



俺は全員が出払った後の廊下を進み、甲板よりも更に高い場所に出る。

そこからは下の様子が良く見渡せ、報告には最高だった。



「…甲板に桂発見。やはり春雨と手を結ぶ気は無いようですね、完全に敵対しています」

『成程。これは上手く使えば武器になり得ますね』

「…それともう一つ、気になる事が」

『気になることですか?』



俺は目を細めて視線を移す。

その先には刀を抜き、陀絡と向かい合っている銀髪の男がいた。

天人には見えない、それに陀絡と一触即発な雰囲気からして恐らく桂の仲間だろう。

そこで座っている二人の子どもを助けに来たのだろうか。

銀髪の侍と、陀絡が同時に動く。

決着は一瞬でつき、俺は呆然とその閃光のような攻防の名残を見つめていた。



『もしもし、どうしたのですかさん?』

「…ぎ、銀髪で白い着物を着た男が…一瞬で陀絡を倒しました」

『何ですと?今何と言いましたか』

「銀髪の男が、一瞬で陀絡を倒しました…。速過ぎて殆ど見えませんでしたが、あれは晋助様に匹敵する…」



身体が小刻みに震え、俺は奥歯を噛み締めた。

左手のケイタイを握る手に自然と力が篭る、もしあの男が敵に回ったら何よりの脅威となる。

俺は何とか自分を落ち着かせると、誰にも気付かれないように宇宙船から脱出した。

俺の着物は紺色なので、返り血はあまり目立たない。

なのでこのまま詳しい報告のため、鬼兵隊アジトへ向かうことにした。

刀も既にいつものように懐へ納めている。



「待て貴様」



内心舌打ちをしつつ俺は振り返った。

そこにいたのは桂だった、妙な格好をしているが間違いない。

桂は『逃げの小太郎』とも呼ばれている、おそらくは春雨の目を誤魔化すための変装だろう。



「何ですか?」

「貴様、春雨の船で俺達を監視していただろう」

「…何を言ってるのか分かりませんが、人違いだと思いますよ」



俺と桂が睨み合う。

この騒ぎで人が集まってきており、桂も迂闊には俺を斬れないだろう。

何よりも真選組が来る前にこの場から離れたいのは、俺も桂も同じ。



「貴様は見るからに怪しいのでな、バレバレだ」

「今のアンタにだけは言われたくねぇよ…」



嫌そうに顔を顰めた瞬間、向こうで怒鳴り声が聞こえた。

どうやら真選組が来たらしい、桂も振り向いて厄介そうな表情に変わった。

桂は上に、俺は横に逃げた瞬間上から声が降ってくる。



「貴様が俺の邪魔をするのならば容赦はしない、次会った時は即刻斬り捨ててくれる」

「俺みたいな下っ端斬ったところで何も変わらねぇ、斬るなら幕府の人間でも斬れよ」



そして後はお互いバラバラに逃げる、てか真選組は殆ど桂の方に向かったから俺は楽だし。

通りに出た俺はふと、自分の発言を振り返る。

自分で下っ端と称した事に、ちょっとだけ自己嫌悪が沸いた。

けど俺は下っ端隊長じゃありませんから、断じて!








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