天気予報通り、今日は雲一つ無い快晴だった。

よし、これ終わったら布団も干すか。きっとふかふかになる。

けどその前に仕込みやっとかないとな、布団は任せるか。



「おい、今日どーすんだ?」

「テレビで快晴だって言ってたろ、船にある布団全部干そうかと思うんだけど」



そんな嫌そうな顔しなくたっていいだろうが。








黒の行方








大量の食材を市場で買い込んだ俺は、トラックで船着場まで大急ぎで向かう。

これは全部俺の所属する組織で使うもの、とはいっても会社じゃないけど。

鬼兵隊。過激思想を持った攘夷派が集まり、一番幕府に睨まれた状態の組織だ。

絶対に関わりたくないと思っていたはずの俺が、正式に隊士として働いている。

人生は先が読めない、そんな言葉で済まされたくないからこそ俺はここにいるワケだが。



「………ん?」



ふと左斜めを見ると、俺のトラックに向けて人が両腕を大きく振っていた。

ヒッチハイクか…面倒だな、けど困ってるやつ見捨てるわけにもいかねぇか。

俺は少し考えてから車を寄せて停まってやる、ハザードも点けてやった。

車から降りると、ボロボロの格好したサングラスのオッサンが駆け寄ってくる。

パンパンのスーツケース、格好がスーツなのにボロボロ、グラサン。

……どう見たってワケ有りじゃねーか、絶対夜逃げだろコレ。

うーわ厄介な物件拾っちまった、今からでも逃られねぇか?



「兄ちゃん頼むよ!少しでいいから乗せてってくれ!!」



期待を裏切らない切羽詰った声。

今度から困ったやつ見つけてもスルーします、自分の身と仕事を第一に考えます。



「何?お前どうしたの」

「理由はトラックで話すから!お願いだから乗せてェェエ!!」



俺にしがみ付いて大泣きするグラサンのオッサン。

通行人がチラチラと、遠巻きにオッサン…いや俺達を見てる。

やばい、目立つのはマズイだろオイ。

俺これでも鬼兵隊所属の隊士だし、もし真選組にでも見つかったら…!



「分かった、分かったから泣くな!通行人の目が痛いから早く乗れ!」

「あびばどォォオ!だずがっだーーーー!!」

「うぜェェエ!乗れっつってんだよ!!」



涙と鼻水でグシャグシャになり、俺の着物にミックスされた液体擦り付けようとしてくるオッサン。

俺はヤツを蹴り飛ばして助手席に押し込め、慌てて運転席に飛び乗って発進させる。

バックミラーで後方を確認すると、数人の野次馬がまだ俺達を見ていた。

……少し遠回りしていくか、万が一後つけられたら取り返しつかねぇし。



「で、一体何があったんだ?」

「………………」



先程とは打って変わって黙り込むオッサン。

いつものルートから外し、信号を右に曲がってわざと遠回りする道を選ぶ。



「俺も自分の事で手一杯だし、オッサンの人生相談聞く気はねーけど」

「………………」

「あれだけ大騒ぎしたんだ、理由くらい説明してもいいんじゃないのか?」



その後、オッサンが途切れ途切れに説明する。

仕事で取り返しのつかない失敗をしてしまったこと、そのせいで幕府から切腹を命じられたこと。

そして、死にたくなかったから夜逃げ同然で脱出したこと、今は金も住む場所も無いこと。

だけど俺にとってそこは重要じゃなかった、いや…こいつが幕府の元重鎮だったってのは重要だけど。

それより気になったのは…。



「で、妻にも逃げられたってか」

「…ハハ、笑いたきゃ笑えよ。たった一度の過ちで俺の人生おしまいだ…」



乾いた笑いを浮かべてタバコに火をつけるオッサン。

俺はどうしようもなく腹が立ち、火をつけたばかりのタバコを横からひったくる。

そして運転席側の窓から放り捨てた。



「な、何すんだよ兄ちゃん」

「俺はタバコが嫌いだ。それに今のアンタも嫌いだ」



俺にこのオッサンの何が分かるわけでもねぇ。

けど、こんな甘い泣き言聞いてられる程俺はお人好しじゃないしな。



「アンタ妻愛してんだろ、まだ離婚はしてねぇんだろ?」

「そりゃ生きてっけど、アイツはもう俺から……」

「だったらもう一度ふり向かせりゃいいじゃねぇか、アンタの妻が…安心して戻れる男になりゃいいじゃねーか」



オッサンがビックリしたような顔で俺を見る。

俺は運転に集中しながら、前方に意識を向けながらも更に言葉を続ける。



「多分アンタのとこの妻は、まだアンタを愛してる」

「は?だってハツは俺を置いて……」

「本当に縁を切りたいんなら離婚届はとっくに出されてるからな、幕府関係なら尚更だ」



俺は幕府がどれほど醜悪で恐ろしいかをよく知ってる。

あれに睨まれたらお仕舞いだ、個人の人生などあっという間に狂わされてしまう。

だからこそ幕府に睨まれた人間に関わろうなどという、酔狂な人間はいない。



「これで破綻すんなら、所詮アンタの妻は保身に固まった女だったってことだ」

「違う!これはハツのせいじゃねぇ!!」

「ほらな、妻侮辱されて怒るってのは妻を愛してる証拠だよ」

「あ……」

「終わりじゃないと思うぜ?アンタは健康で愛し合ってる人がいる、なら何とかなんだろ」



車を脇に寄せて止め、俺はオッサンの方を見た。



「悪いけどヒッチハイクはここまで、俺の仕事は関係者以外立ち入り禁止だからよ」

「…いや、ここまでで充分だ」

「まず仕事探せ、今時アパートなんて金さえあれば入居出来る。かぶき町なら特にな」

「兄ちゃん、アンタ恩人だよ。名前聞かせてくれねぇか?」

「……トラックの兄ちゃん」



サングラスのオッサンが降りると、俺はそれだけを呟いてトラックを発進させた。

いや、別に格好つけたかったワケじゃない。

元とはいえ幕府の重鎮に、鬼兵隊隊士が本名なんて教えられるワケねーだろうが!

どーせヘタレだよ俺は、すみませんねホント。



遅いぞ!」

「悪い、ちょっと時間取られてよ」



船着場についた俺は、案の定待っていた仲間に怒られる。

10分のロスはそれなりだしな、対策は万全を期してるがそれでも停泊は極力短い方がいい。

鬼兵隊は幕府に最も睨まれた攘夷派、慎重にして悪い事は無い。

それにしても……



「何で幕府の人間なんか助けちまうかねぇ…」

「ん、何か言ったか?」

「いや別に」

「おーい、ちょっと手伝ってくれねぇか下っ端隊長」

「下っ端隊長言うなァァア!!」



俺の叫びが木霊する。

とりあえず空は綺麗だった。








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