やっと怪我が全快した。

船に戻った俺を待っていたのは、同期の奴らの心配と歓迎。

そして凄まじい量の雑用、どうやら俺が帰ってくるまで溜めていてくれたらしい。

ありがとな、いい仲間を持って俺は幸せだ。

怒りで涙が出そうになったぜ、お前ら後で覚えてろ。

そんな中でナマった身体を解しつつ、仕事に戻って数日。

万斉様から指令を貰う、そして同時にメルマガ配信。

絶対来ると思ってた、万斉様から指令貰った瞬間に覚悟してた。



「…ホントこの任務だけは降りたいんだけど」











黒の行方








「いいか!俺達の指名はお通ちゃんが無事に一日局長を勤められるよう、見守ることだァァァ!」



公園に響く野太い演説、そして野太い咆哮。

軍曹と呼ばれている男がベンチの上で右腕を高々と上げていた。

俺も和を乱さないよう右手を上げるが、正直どうでもいい。



(何で俺がこんな事…)



これは寺門通親衛隊の会合だった。

真選組で一日局長を勤める事になった寺門通を見守り、応援するために気合を入れる。

万斉様の命令で寺門通親衛隊の会員になった俺。

目的は隊長である志村新八に近づき、白夜叉の情報を搾り出してくること。

けどこの場に志村新八はいない、軍曹が言うには別口で寺門通を見守っているから…らしい。

これも重要な任務なんだが、どうにもやる気が出ないんだよな。



『江戸で婦女誘拐事件が多発してると耳にした』

『ええ…。規模からして真選組に狙いを絞ってるようです』

『だとするなら奴らがこの企画に便乗し、お通殿を狙う可能性は極めて高い』

『真選組はともかく、寺門通に手を出されると困りますね』

『ぬしは会合があるのであろう?良い機会だ、リハビリも兼ねて拙者に動向を報告せよ』



流石に親衛隊全員が固まって、寺門通を追いかけるワケにはいかない。

親衛隊隊規の何条かに、一般人に迷惑を掛けるなとあった。

なのであの演説が終わった後、親衛隊は仲が良い人間同士で集まって解散した。

それぞれが、それぞれの形で寺門通を見守る方向になったらしい。

正直俺は助かった、一緒の相手なんていねーし通常の任務に戻ろう。



「おい、お前一人か?」



後ろから声を掛けられた俺は振り返る。

そこには一昔前の頭してる不良っぽい男がいた。

確か高屋八兵衛だったか、俺より入隊は早いが同じ寺門通親衛隊の新人だ。

しかし隊内での地位は違う、コイツの方がずっと偉い…ようだ。

志村新八の幼馴染との情報があるが、どうやら本当らしかった。



「一人ですけど、どうしたんですか高屋さん?」

「俺の名前知ってんのかよ」

「顔と名前は覚えるの早いんです、隊長といつも一緒にいますし」



程ほどに世間話をしてすぐに切り上げようと思った、理由は寺門通を使えばいい。

しかし、高屋は何故か俺の隣に並ぶ。

何を考えているのか分からずに俺は内心首を傾げた。

そして俺だけに聞こえるよう配慮しているのか、低く囁く。



「お前さ、本当はお通ちゃんのファンなんかじゃ無いんだろ?」



頭に氷を突っ込まれたような感覚が走った。

反射的に手を動かそうとしたが、ここは一般人が数多くいる公園。

本来なら、密偵だとバレてもここまで動揺はしない。

しかしあまりにも唐突過ぎた、あまりにも突然過ぎた。

くそっ、気が進まないからと油断してた俺のミスだ。

思えば白夜叉の近くにいる志村新八が、そしてあの白夜叉が何も考えずに生きてるハズがない。

認識の甘さは、最低の失態として現れてしまった。



「オイオイ、何そんな怖い顔してんだよ」

「………………」

「別に大丈夫だって、実は俺も同じなんだからな」

「え?」



意外な言葉に、俺は変な声を上げてしまった。

そんな俺を気にせずに、高屋は鼻の頭を掻きながら目を逸らす。



「俺、こう見えても昔は結構ワルやってて。そっから新ちゃんに助けてもらったんだよ」



いや…こう見えてって言われても、見たままなんだけど。

見た目ちゃんと不良だから、一昔前の暴走族そのまんまだから。

ツッコミ待ちかと思ったが、本人は大真面目みたいなんで何も言わなかった。

高屋はまた話し始める、どうやら放置で正解だったようだ。



「正直俺は寺門通にあんま興味ねぇ、好きは好きだが新ちゃん程じゃねぇ。
 けど…俺を助けてくれた新ちゃんに少しでも恩返ししたくて、それで寺門通のファンになったんだよ」

「そうだったんですか」

「お前もそうなんだろ?雰囲気がそんな感じに見えんだよ」

「はい。俺もある人に恩を返すために、そのために親衛隊に入隊したんです」

「…やっぱりな。新ちゃんが言ってた通りだったぜ、骨のある新人が入ってきたって」



どうやら俺は、志村新八に少しだけ存在を覚えられているようだ。

――いい機会だ、高屋とは交流を持った方がいい。

そうすれば志村新八に近くなる、白夜叉の情報収集がスムーズになるかもしれない。

よし、思考が密偵モードに切り替わってきた。

この状態なら親衛隊活動も苦痛じゃない、てか通常だったら既にやってらんねーし。



「志村…隊長をあだ名で呼ぶってことは、友達だったんですか?」

「あーそうだぜ。寺子屋からの付き合いなんだよ、親友だな」

「へぇ、そういうのいいですね」

「お前には親友いないのかよ?」

「……大分昔に仲違いして、それっきりです。お互い生きてるのか死んでるかも分かりませんし」



嫌な記憶が過ぎり、俺は目を細めた。

油断すると場所を選ばずに過去の出来事に絡め取られる、けどそれは当然だろう。

俺は自分の足で歩いてるんじゃない、晋助様がくれた薪でやっと動いている状態だしな。

だからこそ俺は鬼兵隊の役に立つ事をしたいんだけど。



「あ、高屋さん。軍曹さんが呼んでますよ?」

「げ、マジかよ」

「それじゃ俺はこれで。お通ちゃんを見守ってきます」



高屋に頭を下げた俺は走って公園を出る、必要だったとはいえ加減を誤ったな。

大分時間を取られちまってる、今何時だ?

……この時間なら寺門通は真選組の連中と見回りに出てる、少なくともタイムテーブルは。

俺は万斉様から知らされた進行状況を頭の中で整理し、大体の居場所を予測する。

てかこの法被目立つし邪魔なんだけど。もう脱いでいいよな?



(……あれか)



寺門通は真選組の局長、近藤勲とテロ用心を呼びかけていた。

いや何あの憂いに満ちてる不気味な馬みたいなキャラ、絶対子ども泣き出すって。

それに一般人にテロの用心呼びかけたって、どうにもなんねーだろ。

テロってお前らにとって火の用心と同レベルかよ。

生憎俺達ァ、用心してどうにかなるような甘いテロ行為行う気はねェんだよ。

――晋助様ならこのくらい言いそうだ、それとも呆れて何も言わねぇかも。



「………………!」



奥の路地裏で怪しい動きがあった。

一般人?普通の一般人がこそこそと寺門通、真選組の後つけるか?

寺門通の異常なファンならやりかねないだろうが、今の彼女は真選組に警備されてるようなモンだ。

あれは朝万斉様と話した誘拐グループだろう、ご丁寧に武器持参してる時点でバレバレだ。

顔に布巻いてる分多少は賢いんだろうが、逆に目立ってっから何とも言えない。



「つーか何やってんだよ…」



舞い上がってんのか疲れてんのか知らねぇけど、真選組は隙だらけだった。

これなら俺でも寺門通を誘拐できる。

……お前ら本当に市民護る気あんのか?

本当はやる気なんかねーんだろ、不祥事起こして給料落とされんのが嫌なだけだろ?

必要な時に助けてもくれねぇくせに、イメージアップにだけは勤しむんだな。

何か腹立ってきたんだけど。

俺は端末に番号を打ち込んだ、相手は勿論決まっている。



「もしもしです」

、お通殿はどうでござるか?』

「変な連中が真選組、いえ寺門通を尾行しています。状況からして誘拐グループかと」

『ふむ、拙者も――』

「何をしている?」



今のは当然俺が言ったんじゃない、後ろからの野太い声だ。

俺は顔を少しだけ動かし後ろを見た、顔に布を巻いていることを確認し目を細める。

俺が万斉様に報告している誘拐グループの一人だろう。

単独か、なら…。





動いたのは、俺も相手も同時。

一瞬だけ視線がぶつかり合い、雌雄は一瞬で決した。








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